大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和58年(ワ)11748号 判決

原告 西関東小松販売株式会社

右代表者代表取締役 大家健広

右訴訟代理人弁護士 定塚道雄

同 定塚脩

同 定塚英一

被告 日立建機株式会社

右代表者代表取締役 西元文平

右訴訟代理人弁護士 伊達利知

同 溝呂木商太郎

同 伊達昭

同 澤田三知夫

同 奥山剛

主文

被告は原告に対し、金四八万円及びこれに対する昭和五八年一二月九日から支払ずみまで年五分の金員の支払をせよ。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

被告は原告に対し、金一八〇万三五九〇円及びこれに対する昭和五八年一二月九日から支払ずみまで年五分の金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決及び仮執行の宣言

二  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告(請求の原因)

1  原告は、昭和五七年七月二日から同年九月一六日までの間に、訴外吉田土木建設株式会社(以下訴外会社という。)の注文により、小松製作所製D七五S―二型ドーザーショベル第一四五七号機(以下本件機械という。)につき、つぎのとおり代金合計金一八〇万三五九〇円相当の修理をした。

(修理日) (修理の箇所又は内容) (修理代金額)

七月二日 左アイドラシリンダー 二万一四〇〇円

七月三日 フック取付 三万一六〇〇円

七月九日 足廻りキャタピラ脱着

トラックフレーム脱着

トラックフローラ交換

ストリップ及びプレート交換

フロントアイトラ左右脱着

左アイトラオーバーホール

アイトラ肉盛り

左右ファイナル外側オイル

洩れ修理

洗車・グリスアップ 小計一三六万八〇〇〇円

七月一五日 エンジン始動不良

フェルフロートオーバーホール

フェルフロートバルブ交換 小計四万二〇〇〇円

七月二九日 エンジンフィルターケース

取付けホース交換 小計六万四五九〇円

八月二一日 ファイナルオーバーホール

作動油エレメント補充 小計一二万三〇〇〇円

九月一六日 ウォーターポンプ交換

冷却水交換

ステアリングポンプ修理 小計一五万三〇〇〇円

合計金一八〇万三五九〇円

2  訴外会社は、右修理代金の支払をしないまま、昭和五七年一二月事実上倒産し、昭和五八年七月一一日破産宣告を受けた。このため、原告の右修理代金債権は、ほとんど回収不能となり、原告は、その代金額と同額の損失を蒙った。

3  本件機械の所有権は被告に属していたところ、被告は、昭和五七年一二月訴外会社が事実上倒産したころ、訴外会社から本件機械の返還を受けた。これにより、被告は、右修理代金額と同額の利得を得た。

4  被告が本件機械の返還を受けたことにより得た右利得は、原告の訴外会社に対する修理代金債権が無価値である限度において不当利得となり、損失者である原告に返還すべきものである。

よって、原告は被告に対し、右修理代金額と同額の不当利得金一八〇万三五九〇円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和五八年一二月九日から支払ずみまで民事法定利率年五分の遅延損害金の支払を求める。

二  被告(請求の原因に対する答弁)

1  請求の原因第1項の事実は知らない。同第2項の事実中、訴外会社が原告主張の日に破産宣告を受けたことは認めるが、その余の事実は知らない、同第3項の事実中、本件機械が被告の所有に属していたこと及び被告が原告主張のころ本件機械の返還を受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。

2  本件機械は、もともと被告が訴外会社に対し、中古品として代金三八〇万円で売り渡したものであり、被告は、その返還を受けた後これを他に転売したが、その価額は金一五〇万円にすぎなかった。これによれば、原告主張の修理によってはその主張のような価値の付加はなかったことが明らかである。そして、右修繕により価値の付加があったとしても、その価値は、本件機械が被告に引き渡されるまでの間に訴外会社によって使用されたことにより減少した。しかも、本件機械の修理が行なわれた直前におけるその残存価値は明らかではないから、付加された価値の割合的残存額もまた不明である。

第三証拠関係《省略》

理由

一  《証拠省略》によれば、原告は、訴外会社の注文により、本件機械につき昭和五七年七月二日から同年九月一六日までの間に請求の原因第1項記載のとおり(ただし、昭和五七年七月三日の分代金三万一六〇〇円のうちには、他の機械の修繕による分若干が含まれている。)の修繕を行ったことが認められ、右認定を左右する証拠はない。そして、《証拠省略》によれば、訴外会社は、同年一二月二〇日手形不渡りを出して倒産したことが認められ、さらに、訴外会社が昭和五八年七月一一日破産宣告を受けたことは当事者間に争いがない。右事実によれば、訴外会社は、原告に対して本件機械の右修理代金を弁済する資力を有しないことが明らかである。

二  本件機械が被告の所有に属していたこと及び被告が昭和五七年一二月ころ訴外会社から本件機械の返還を受けたことは当事者間に争いがない。そして、《証拠省略》によれば、被告は、同年一月一一日訴外会社に対し、本件機械を所有権留保のうえ代金三八〇万円で売り渡し、訴外会社は、埼玉県嵐山町の工事現場で被告に返還するまでこれを使用していたこと及び被告は、昭和五八年四月二二日訴外池田機械工業株式会社に代金一五〇万円で本件機械を売り渡したことが認められ、右認定を左右する証拠はない。

三  以上の事実によれば、原告が本件機械の修理を行ったことにより、本件機械にはその修理代金額に相当する価値が付加されたものというべきところ、右修理の注文者である訴外会社が倒産して破産に至ったことにより、原告は、訴外会社から右修理代金の支払を受けることができなくなったことが明らかである。他方本件機械の所有権は被告に属し、被告は、右のように価値の付加がなされた後に本件機械を引き揚げたものである。したがって、原告は、右修理により修理代金額に相当する損失を蒙り、被告は、付加された価値に相当する利得を受けたものであって、右損失と利得との間には因果関係があるものというべきである。もっとも、本件機械は、前認定のように、修理されたのちも被告が昭和五七年一二月に引き揚げるまで訴外会社によって使用されていたのであるから、これによってその価値の減損を生じたことが明らかであり、したがって、被告の利得は、被告が本件機械を引き揚げた際における、訴外会社の使用により減損を生じた状態にある本件機械において残存している付加価値に相当する額にほかならないものというべきである。そして、前記修理によって付加された価値は、訴外会社の使用による本件機械の減損とともにすべて消滅したものではなく、修理された本件機械自体の価値に対する付加価値の割合のまま本件機械の減損後も残存したものというべきである。

そこで、修理された本件機械の価値に対する付加された価値の割合が何程であったかについてみるのに、本件に表われたすべての証拠によっても、修理される直前における本件機械の価額も、また修理された状態における本件機械の価額もこれを知ることができない。そうとすれば、被告の利得につき原告が証明責任を負担していることに鑑み、付加された価値の割合に関するかぎり、被告が訴外会社に本件機械を売り渡した際における本件機械の価値(金三八〇万円)が修理の直前までなお維持されていたものとしてその算定をするのほかはない。そして、修理代金額は、金一八〇万三五九〇円であるが、前記認定のように右代金額は他の機械の修理代を含むものであるから、前示証人佐藤守雄の証言によって窺われるその修理の程度を考慮し、修理により本件機械に付加された価値は、金一八〇万円に相当するものと認める。そうすると、その割合の算定の基礎とすべき修理された機械の価額は、本来の価値金三八〇万円に付加された価値金一八〇万円を加えた金五六〇万円であり、これに対する付加価値の額金一八〇万円の割合は、三二パーセント(端数切り捨て)である。

被告が本件機械を引き揚げた際における本件機械の価額は、その転売価額金一五〇万円に等しいとみるべきであるから、そのうちの付加価値の残存額は、その三二パーセントに相当する金四八万円である。すなわち、被告は、原告の損失により金四八万円の利得を受けたものである。

四  そうすると、原告は、訴外会社の注文により本件機械の修理をしたが、訴外会社が破産宣告を受けるに至ったことにより、金一八〇万円の損失を生じたところ、本件機械の所有者であった被告には、これによりその返還を受けた際金四八万円の利得を生じたのであり、被告が右利得を受けるにつき法律上何等の原因も存在しないことが明らかである。したがって、被告は、原告に対し、不当利得金として金四八万円及びこれに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日である昭和五八年一二月九日から支払ずみまで民事法定利率年五分の遅延損害金の支払をする義務があり、原告の請求は、右の支払を求める限度で理由があるが、その余は失当である。

よって、右の限度で原告の請求を認容してその余を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条、第九二条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 橘勝治)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例